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大分地方裁判所 昭和35年(行)6号 判決

大分県大野郡朝地町大字板井迫八三九番地

原告

工藤義親

被告

右代表者

法務大臣 中垣国男

右指定代理人

検事 中村盛雄

法務事務官 熊谷英雄

同 長野愛彦

大蔵事務官 塩川渡

同 岩崎義朝

同 田中貢

国税訟務官 小松正文

右当事者間の昭和三五年(行)第六号行政処分取消等請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、被告は原告に対し、三重税務署長が昭和三二年度贈与税の滞納処分として昭和三四年一二月八日原告所有の別紙目録記載の不動産に対してした公売処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、

三重税務署長は原告の妻で訴ある外工藤キヨ子に賦課した昭和三二年度贈与税五〇、〇〇〇円およびこれに対する延滞加算税等の滞納処分として昭和三四年一二月八日原告所有の別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という)公売し訴外森次夫が金六五、六〇〇円でこれを落札した。ところで本件公売処分には左のような違法があるから無効である。

(一)  訴外工藤キヨ子に対する贈与税の賦課は、キヨ子が原告から家屋の贈与をうけたとしてなされたものであるが右贈与の事実はないから右賦課処分は違法無効である。従つて相続税法第三四条第四項に基き原告に対してなした本件公売処分は当然違法無効である。

(二)  本件滞納処分の通知には異議申立に関する記載がなく、そのため原告は法の不知により異議申立ができなかつた。右のような通知は違法であり、右の滞納処分手続上の瑕疵により、本件公売処分は違法無効に帰する。

よつて、本件公売処分の無効確認を求めるため本訴請求に及んだ。と述べ、証拠として証人工藤キヨ子の証言を援用し、乙第一、第二号証の成立は否認する、同第三、第四号証の成立は不知と述べた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、キヨ子が原告の妻であること、三重税務署長が原告主張のような滞納処分をしたこと、同署長が原告に対し送付した贈与税納付通知書に異議申立に関する記載がなかつたこと及び原告が適法の期間内に異議の申立をしなつたことは認め、その余の事実は否認する。大分県大野郡朝地町大字坂井迫字台八三九番地家屋番号五三番の二木造瓦葺平家建居宅一棟建坪三九坪一合五勺につき昭和三二年四月一〇日付でキヨ子名義に保存登記がなされているところ、当時の価格四〇万円以上の右家屋(以下本件家屋という)は原告が同女に贈与したものであり、仮りにそうでないとしてもその建築資金四〇万円を贈与した。その贈与税額は五万円で納税義務者はキヨ子であり、原告は相続税法第三四条第四項により右贈与税の連帯納付義務を負うから、三重税務署長が同女に対してなした贈与税の賦課処分及び原告に対してなした本件公売処分はいずれも適法である。と述べ、証拠として乙第一号証ないし第四号証を提出し、証人二宮克彦、同後藤康一の各証言を援用した。当裁判所は職権により原告本人を尋問した。

理由

三重税務署長が原告の妻キヨ子に賦課した昭和三二年度贈与税及びその付加税等の滞納処分として、原告に対し相続税法第三四条第四項に基く連帯納付義務者と認めてその所有の本件不動産を昭和三四年一二月八日公売に付し訴外森次夫をして落札させたことは当事者間に争いがなく、同署長がした贈与税の賦課及び原告を連帯納付義務者と認めてした滞納処分は、原告が昭和三二年四月一〇日キヨ子に対し本件家屋又はその建築資金四〇万円を贈与したことを根拠にするものであることは被告の自認するところである。

原告は右贈与の事実を争うので按ずるに、証人工藤キヨ子、同二宮克彦の各証言と原告本人尋問の結果によれば本件家屋の建築申請及び保存登記(昭和三二年四月一〇日付)は、いずれもキヨ子名義でなされているが大工職である原告において建築工事を施行したことが認められ、証人工藤キヨ子及び原告は同女が原告に対し本件家屋の建築資金として着工の昭和二七年頃に約一〇万円を、その後逐次一〇万円位合計二〇万円位を交付した旨供述するけれども、前顕証拠に照らせば本件家屋の建築資金の提供者は原告若しくはキヨ子以外には考えられないところ、キヨ子においてその資金の出所を明らかにすることができないし、また昭和二七年頃から昭和三二年頃にかけて原告家の家族七人の生計は大工職である原告の収入と田畑八反位の自小作地から上る収益によつて維持されていたが、キヨ子は家事農業の手伝をする程度で所得はなかつたことが明らかで更に証人二宮克彦の証言並に同証言により成立を認められる乙第一号証によれば三重税務署の徴税吏員である訴外二宮克彦は、前記のようにキヨ子名義に保存登記がなされていることを探知し、昭和三二年二月六日頃大野郡朝地町役場において原告に対し「所得のないものが家を建築しても、夫である原告から贈与を受けたものと考えられるから、かかる場合は贈与税を賦課される」旨説明したところ、原告は結局これを諒承し、本件贈与税申告書(乙第一号証)の申告人工藤キヨ子名横に原告自ら印章を押捺して、これを提出したことが認められ、尚証人後藤康一の証言と、同証言により成立を認め得る乙第四号証によれば、原告は昭和三二年六月一日、本件家屋並原告の父工藤秀夫所有の宅地を担保に訴外西日本相互株式会社より、本件家屋建築資金の不足分として金四十万円の融資を受けていることが認められ、これら諸事実に弁論の全趣旨を総合すれば本件家屋は原告が昭和三二年四月一〇日妻キヨ子に贈与したものと認めることができるのであつて、以上の認定に反する証人工藤キヨ子の証言及び原告本人尋問の結果の各一部は前顕証拠に照らしたやすく措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。

してみれば三重税務署長がキヨ子に対し右事実に基き贈与税を賦課した処分は違法無効ではない。しかして相続税法第三四条第四項によれば贈与者たる原告も右贈与税について連帯納付義務を負うから同税務署長が原告に対してなした本件滞納(公売)処分はもとより違法無効ということをえない。

次に、原告は本件滞納処分の通知には異議申立に関する記載がない。右のような手続上の瑕疵は本件公売処分の違法無効を来すと主張するが、右にいう通知が、かりに納税告知書、督促状あるいは差押書のいずれをも含む趣旨であるとしても国税徴収法第四二条、第四五条、第六八条、同法施行令第一五条、第一八条、第三〇条によれば右いずれの書面にも異議申立に関する事項は記載を要求されていない。従つて本件滞納処分に関する通知書に右の記載を欠くとしても本件滞納処分を違法無効たらしめるものではない。

よつて原告の主張はすべて採用することができない。

してみれば原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島信行 裁判官 藤原昇治 裁判官 田尻惟敏)

物件目録

大分県大野郡朝地町大字坂井迫字台七九二番の二

一田四畝一五歩

同 所 七九二番の三

一田四畝一一歩

同 所 七九三番

一田二四歩

以上

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